親父の手

僕の父親のお話です。現在は77歳で、3月に78歳になります。
僕の父も洋食のコックさんで、奈良や大阪のホテルのレストランやゴルフ場のレストラン、老舗のレストラン等で働いていました。
仕事が休みの時は、映画に連れて行ってくれたり、プールや山登りに連れて行ってくれる、父親でした。
とにかく仕事が好きで、自分でデミグラスソースやカレールーを何日もかけて作ったり、ドレッシングやマヨネーズ等、よく作っていました。
仕事が終わった父の側に行くと、なんとも言えない「おいしいそう香り」がして…
ある日はナポリタンスパゲティーのソースの匂い、ある日はカレーの匂い、またある日はオムライスのチキンライスを炒めた匂い。
家でもレシピノートを書いたり、料理の本を読んだり。
レシピノートの数はダンボール5個分、料理の本は…同じくらいのダンボール箱が今もあります。
直接、料理を教えてくれる事は無く「見て覚えろ」が口癖で、使っている材料しか教えてくれず、分量や煮る時間等は教えてくれませんでした。
「目で見て、食べてみて覚えろ」
だから試行錯誤しながら、僕も作っていました。
父の手は分厚く「コックさんの手」で、フライパンを持ったり、包丁を握って仕事をするからだと。
今、僕の手も「分厚く」なり、コックさんの手になってきました。
そんな父親の背中を追っかけて、お店をやっています。
キャベツを切る時、ポテトサラダやカレールーを作る時。
全てにおいて、お店で手作り。
明日も朝から、同じ事の繰り返しです。
父親を超える事はできないかもしれないけど、父親に近づく事はできているかなって、いつも自分に問いかけています。
「昔のコックさんは良かった」って言われないように。
「昔のレストランは美味しかった」って言われないように。
「今も昔と変わらず、美味しいよ」って言われるように。